fire blizzard
-7-
そんなこんなで、空中連携技を実際に試してみることにした。ガゼルが右側、俺が左側。でもこれ、二人三脚と同じで、タイミング外すと悲惨なことになりそうじゃねぇか?今まで自分のペースで打ってたからラクだったけど、こんな急造で合わせられんのかな。
「助走は?」
「とりあえず20mでどうよ?」
「分かった」
実際、ガゼルから蹴り始めて、途中でボールもらってドリブル始めてみたら、
(あれっ20mってどの辺だ?!)
距離感なんか全然掴めなくて、ガゼル一人でジャンプさせちまってた。
「うわっ悪ぃ!」
「……」
ガゼルは無言で降りてきた。何か怖いんですけど。
「いや〜〜、ムズいなぁこれ!」
思わず目線泳がせながら言うと、
「数字で何mなんて決めても普段意識しないだろ。難しいのは当たり前だ」
意外と冷静な反応が返ってきた。やべぇやべぇキレられてなくて良かった。でもあんま俺ばっかポカしてたらマズいな、こりゃ。
「じゃあ20mはやめな。印つけようぜ印」
「印って、どうする気だ」
「エイリアボールでも置いときゃ良くね?光るし」
俺はそう言って、黒赤のボールをめぼしい場所に置いた。プロミネンスボールなの見て、ガゼルがちょっと不機嫌そうに眉を上げる。けどしょうがねぇじゃん、今これしかねぇんだよ。
「GO!」
今度はどこで跳べばいいかってのは分かりやすかったから、どの辺で何しようっていう目算はついた。
が、そしたら今度は、
「あっ!」
ガゼルの方が珍しく足元を狂わせて、蹴り上げるつもりみたいだったのにボールは斜め前に飛んでった。ってちょっと待て、エイリアボールに直撃コース?!ワープされたらヤバいって!!
「おらっ!!」
とりあえず跳んで距離かせぐ。追い付いた!体勢は悪かったけど何とかクリアしたら、エイリアボールの2m手前だった。危ねーっ、あと1秒遅かったらどっかにトバされてたかも。
「…すまない」
蹴った拍子に尻もちついてた俺のところに、ガゼルは後から走って来た。心なし、その目が揺れてる。俺はどう答えていいか分かんなくてとりあえず立ち上がった。あぁ、さっき俺がポカった時ガゼルが黙ってたのも、こういうことだったのかな。
「…とりあえず、エイリアボールはねぇな、危なすぎだったぜ。何かプレッシャーもあったし」
シーンとするとやだったんで、俺は急いでそう言った。ガゼルは一見全然いつも通りのすまし顔だったけど、
「そうだな…次はどうする?」
声が気持ち気まずそうに聞こえた。
それから先も色々試したけれど、なかなかうまく合わせられるような有効な手段は見付からなかった。ジャンプはできても二人のタイミングが微妙にずれているとか、ボールに二人同時にミートできなくて片方が空振りするとか。考えられるミスは全部したんじゃないか。やっぱり空中で合わせるのは難しいな。無駄なジャンプが増えるものだから、私もバーンも息が上がってきていた。
「んじゃ…もう一回、やんぞ」
「…ああ」
それでも、技を完成させたいから続ける。今度こそ、そう思いを込めてボールを足元に置いた。
「GO!!」
バーンが走り始める。ボールをバーンに出して、私もすぐに追い付く。ここまでは、いつも問題ないのだが。
「うらっ!!」
バーンがクリアを上げる。次のジャンプのタイミング、これが第一の関門だ。
(…今か?!)
勘の任せるままに、跳ぶ。今回はバーンがコンマ5秒早かった。だがこれくらいのタイミングならば。
しかし――そう思ったのが焦りに繋がったのか、
「うわっ?!」
「どわっ!!」
空中でバーンとぶつかって、ボールもろとも落下してしまった。
「いててて…大丈夫か、ガゼル?」
「…何とか」
ボールが数回跳ねる横で、バーンはうつ伏せ、私は仰向けに倒れていた。背中から落ちたので打ち付けた部分がまだ痛い。バーンの方も派手な落ち方をしてたから、多分そんな感じだろう。
「だーっ!!畜生、なかなかうまくいかねぇなぁ」
バーンはその場でゴロンと仰向けになった。私はチラとそれを横目に見たが、すぐまた目を戻した。
二人並んで、暗い天井を見上げる。
「できんのかな…」
「…やるしかないだろ」
「そうだけど、さ」
そう言うと、バーンはしばらく黙りこんだ。
でも何も言わなくても、互いの収まりきらない息遣いが聞こえて、バーンが隣にいるっていうことを妙に実感する。
私もバーンも、今まで隣には誰もいなかった。あの方のために強くなる、それだけを目指して、一人でチームを引っ張ってきた。結果としてチームは私を/バーンを慕ってくれて、それはとても嬉しくて大切なことだったけど、同時に背負わなければならないものも増えていた。私たちは、そういうものを全部一人で背負い切ってここまで生き抜いてきた。バーンは熱くなりやすい割に行動は大人なことが多い。私も14歳としては多分気持ち悪いレベルだろう。それはきっと、必要に迫られてのことだ。
でも――こうしていると、やっぱり、隣に誰かいるのは落ち着く。
孤独に慣れていたつもりでも、そんなことはなかったんだって思い知る。子供じみた人恋しさが、今更膨れ上がってくる。
何となくバーンを見たら、ちょうどバーンも私を見たところで、目が合った。
「……」
「……」
何だよ、タイミングまで一緒って。
俺とお前は炎と氷。正反対、だけど。
立場とか考えてることとか、こーいうタイミングとかも、一緒のこととか似てるところが多分いっぱいあって。
だから何だか惹かれる。一緒にやりたい、隣にいて欲しいって思うんだ。
ニッと笑ったら、ガゼルも笑った。
バーンが笑ったから、私も笑った。
「…ふっ」
「…あはっ」
そしたらどっちからともなく笑い始めて、
「あっはははは!!」
二人して意味も分からず大笑い。何だ、お前もそんな風に笑ったりすんのかよ。
組んでから、お前の知らなかった面がたくさん見えてくるな。
「良かった」
笑いの波が一段落ついたところで、ガゼルがポツリと言った。
「ん?」
聞き返せば、ガゼルは笑顔のままで、
「まだサッカーにはこんな楽しいことが残ってるのに、気付かないところだった。お前と一緒だったから、思い出せたんだ」
って言った。
「……」
……お前、よく恥ずかしげもなくそんなこと言えんな。
そんなん、俺だって同じだよ。お前がいなかったら、またたった一人で、ひたすら強くなろうとするだけしかできないで終わるところだった。
お前とやってたら、楽しくて仕方なくて、しかも強くなれるんだ。最高じゃん。
…でもそんなこと、とても面と向かって言えねぇっての。
「君と組めて良かった」
ガゼルが笑う。見たことない顔で、また。
「…」
何だろ、この気分?
すごく嬉しいのに、何か落ち着かないみたいな。
「…そーいうことは技完成してから言えよ」
それが何か居心地悪かったから、ごまかすためについ口が悪くなった。
「…それもそうか」
でも、それにはガゼルも納得した。
「…っし、やるか!」
「ああ」
俺たちは、同時に起き上がった。そう、こんなとこで立ち止まってる場合じゃない。俺たちはもっと上までいけるんだ!
…でもその前に、
ちょっとだけ仕返ししてやる。
「ガゼル!」
「ん?」
呼ばれて振り返ったら、バーンにぐいと掴まれて、
「頑張ろうぜ」
額に、コツンとバーンの額。
「…」
言うべき言葉が見付からない。目を丸くしていると、その目のすぐ前のバーンが、何だか満足そうにニッと笑った。
(近っ…)
取り繕う暇もなく、動揺した。
顔、赤くなったりしてないだろうか。
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