fire blizzard
-6-
「連携技?」
「そ。お前左利きなんだろ?ちょうどいいじゃねぇか」
「……」
その発想自体がなかった私は、しかし、なかなか返事ができずにいた。そんなこと、急に言われてもすぐにイメージできない。バーンと私で連携技?正反対過ぎて威力が相殺してしまうんじゃないか?うまくいくのか?
「よっ」
色々考えていた私の横で、バーンが跳ねるように立ち上がった。私もバーンに目を戻す。
目が合う、5秒。
その私の目を見据えたまま、バーンはニッと笑った。
「!」
これは、あの時の。
『大丈夫か、ボニトナ?!』
『うるせぇな!』
『気合い入れろよお前ら!!』
プロミネンスの奴らに見せていた、私には見せたことがなかった、あの時の顔と同じ。
チームメイトに対する顔だ。
「せっかく組むんだろ。俺たちの力、形にしようぜ」
バーンがその笑みのまま、手を差し出してくる。
「……」
……そんな顔されて、手を差し出されて、
その手を取らずに済む奴がいたら、見てみたいよ。
「どういう技をイメージしてるんだ?」
最初やたら驚いてた割には、具体的な話を始めると、ガゼルはもういつもの淡々とした調子に戻ってた。
「俺は空中戦得意だしジャンプしてシュートかなぁと思ってんだけど、それってお前的にどう?」
聞かれたんでとりあえず自分の希望を言ってみる。でも、ガゼルが空中戦してたのは、少なくとも俺が見た限りじゃ見たことない。これだけ全部のスペックが高けりゃできないことはねぇだろうけど、そう得意でもないんだろう。空中がいいってのは俺のわがままかなぁ。言ってからちょい不安になってきた。
「…そうだな、少し練習させてくれ」
ガゼルは少し考えてからそう言った。お、やる気になってくれんのか。
「言ってみただけだぜ、いいのかよ?」
思わず確かめると、
「…まぁやってみてからではあるが」
ガゼルはスパイクの紐を縛り直しながら答えた。
「君となら、その高さを活かした方がいいのは確かだからな」
そりゃあありがたいけど…何かやたら客観的な言い方だな。
「…苦手、ってことはねぇよな?」
まさかとは思いつつ聞くと、
「…得意とは、言えない。苦手でもないけど」
という答え。
「おい、だったら早くそう言えよ!考え直そうぜ」
俺は慌てて言った。二人の連携技なのに俺だけ得意なとこでガゼルに我慢させてるんじゃ意味がない。大体キャプテンの件といい、譲ってもらってばっかじゃ気持ち悪いじゃねぇかよ。
「苦手じゃないって言ってるだろ。だから、やってみてからだ」
そんな俺なんかどこ吹く風でガゼルは言って、タオルとドリンクを置きにベンチへ歩いてった。話聞く気ねぇなこいつ!分かったよ、そう言うんならやってみりゃいいじゃねぇか。
そういうわけで、俺はガゼルが空中技がどれくらいできんのか、じっくり見させてもらうことにした。
「あんまりジロジロ見るな!得意じゃないって言ってるだろ」
「なぁんだよ、見られてちゃできなくなるってか?可愛いじゃんかよ、ガゼル様」
「……」
ついつい挑発してやると、ガゼルが何も言わずにイラッとしたのが分かった。何だ、冷静で売ってるけど人並みにこんな反応もするんだな。今まで無駄にふっかけた挑発には、テンパるか逆に全然動じないかしか反応なかったけど。
「…分かった、じゃあ黙って見てろ!」
ガゼルはそのちょっと苛立ったままみたいな声で言った後、足元のボールを軽く跳ね上げた。そのままリフティング、2回、3回。そして3回目のボールは地面に落として、跳ねたところを思いっ切り蹴り上げた。
「……!」
それを追ってジャンプするガゼル。
(…高ぇ!)
得意じゃないって聞いたからって見くびってたわけじゃないつもりだった。
でも、正直油断させられてたんだって思い知った。これで得意じゃないって…?
「ハッ!!」
空中でガゼルが斜め気味に一回転して蹴る。
「!!」
この動き、これって。
足が逆なだけで――アトミックフレアじゃん。
(…マジかよ…)
もうどっから驚きゃいいのか分かんねぇくらい驚いて、ようやく状況が飲み込めた時には、顔がカーッと熱くなってきてた。
そういうのやめろよ、うわっバカ、直視できねぇよ。
ボールは冷気をなびかせながら、無人のゴールに斜めに刺さった。
(だからジロジロ見るなと言ったんだよ)
着地したのはバーンに背を向けて、でもそれでも驚きと照れで声が出ないということは気配で嫌と言うほど伝わってきた。
苦手ではないと言いはしたものの、ジャンプシュートは難しい。今までは、敢えてやろうとまで思わなかった。でも今は、連携技を編み出そうという時だ。私が苦手だからという理由でバーンの強みを活かせなくなるのは嫌だし、何より君のことをもっと知りたい。君の見てる風景を、私も見たい。それなら、君の技を真似すれば、一番近いものが見えるだろう?幸いここ何日かでアトミックフレアを見るチャンスは多かったから、動きを覚えるのは簡単だった。
しかし意外と何とかなるものだ。見よう見まねでもこれだけ出せるのなら、練習次第では空中も悪くないかもしれない。知らず知らず笑みがこみ上げる。前にやってみた時より感触がいいのは純粋に喜ばしいことだ。
「テストは合格か?」
ボールを取りに歩きながら、バーンの方は見ないで言った。どんな顔してるのか興味ないわけじゃないけど、見てしまったら反応に困ることになりそうだ。
「…っ、何から何まで真似すんじゃねぇっ!!」
ボールをちょうど拾っている時に、気配そのままに動揺しまくったバーンの声が追い掛けてきた。
「何のことだ?」
笑ってしまいそうになりながら振り返ると、バーンは予想通りの真っ赤な顔で私を睨んでいた。
「…ずいぶん可愛い反応じゃないか、バーン様?」
「うるせぇな!!」
意趣返ししてやれば、ますます笑ってしまいたくなるような噛みつきが返ってきた。いいじゃないか、こういうところでだって対等でなきゃな?言われっ放し、やられっ放しにはならないよ、キャプテン。
「大体、質問の答えになってないぞ。どうだ?」
まだ動揺が収まってない様子のバーンの方へ歩きながら、私はもう一度尋ねた。
「…そんなん、苦手って言わねぇだろ」
私が目の前まで来て足を止めてから、バーンはまだ赤さの残る顔で、恨みがましそうな声で言った。
「だから言っただろ、苦手じゃない」
「…ったく」
したり顔で言ってやれば、バーンにもようやく笑顔が戻ってきた。
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