fire blizzard

-5-

「バーン様!」
プロミネンスの奴らのところへ戻ると、俺がどこ行ったのか気をもんでいたらしい、みんな一斉に俺のところへ駆け付けてきた。
「……」
そっか、こいつらにもダイヤモンドダストと組むこと言わなきゃいけねーのか。
ほとんどノリで決めたようなもんだけど、大丈夫か?
俺が何となく渋い表情になったのを、奴らはどうとったのかゾッとしたような不安なような顔で黙りこんだ。何だかシーンとしちまって、何て言い出したらいいのか分かんなくなった。やべぇな、どうすっかな。
「バーン様…どこ行ってたんですか?」
そうこうしてるうちにヒートが言い出してくれた。ナイス質問。…まぁ、言いづらいには違いねぇけど。
「…ガゼルんとこ」
「えっ…?!」
聞いたヒートも、その後ろの奴らもみんな、アホみたいに驚いたツラになった。
奴らにとっては予想もしない展開だったんだろうな。
もう今言うしかねぇ。
「いいか!俺たちプロミネンスは、ダイヤモンドダストと組んで最強のチームを作る!」
「えええええっ?!」
案の定、奴らはみんな揃って素頓狂な声を上げた。

「何ですかそれ!どうしてそうなるんです」
「やだ、あたしダイヤモンドダスト嫌いです!」
「本当なんですか、バーン様!」
そしてその一瞬後には、堰を切ったように質問と文句の嵐。
「うるせぇな!!冗談でこんなこと言えるか、大マジだよ!ジェネシスの座を奪うためだ!」
一発怒鳴ると、奴らは急にシーンとした。だが、顔を見れば納得してないのは一目瞭然だ。思わず舌打ちしそうになる。
『ネオ・ジェネシス計画を、ここに発動する!』
ガゼルと手を取ったらどこまででも行けそうな気がしたあの感覚。それがこいつらには伝わらないんだろうか。もちろん俺だって追い詰められなきゃ気付かなかったし、気付くのに時間もかかった。急に分かれってのは無理があるのも分かるけど。
「バーン様」
不意に言ったのはバーラだった。みんな一斉にバーラを見る。
「ジェネシスへの道が厳しくなって、強くなってきた雷門に確実に勝つためにもダイヤモンドダストと組む必要があるというのは分かります。その上で…一つ質問させて下さい」
「…いいぜ、何だ?」
「キャプテンは…誰ですか」
バーラがそう言った瞬間、また全員が俺を見た。
「キャプテンは俺だ。さっき決めてきた」
事実のままの答えだが、この空気じゃそうじゃなかったら大変なとこだった。実際、
「分かりました。それならやります」
バーラは満足そうにそう言った。――それって、ガゼルがキャプテンだったらやらなかったってことかよ。そんな場合じゃねぇだろ、ホントに分かってんのか?だが俺の思いとは裏腹に、他の奴らもそれでようやく笑顔になってくる。
(…まぁ、それでこいつらが納得すんなら別にいいけどよ)
俺だってキャプテンやりたかったわけだし、それくらい負けん気が強い方が頼もしいってもんでもある。
「よし、練習始めんぞ!!プロミネンスがまだまだ終わりじゃないってこと、見せてやれ!!」
「はい、バーン様!!」
モヤモヤを吹っ切るように言えば、今度の返事は威勢が良かった。

『何番にしようかな…』
何も言わずにキャプテンを俺に譲ったガゼル。
あいつは大丈夫だったかな。


チーム練の間はそれで良かったけど、夜、一人になってから考えると、やっぱりモヤモヤしてきた。俺がキャプテンじゃなきゃダメだってんなら、あいつらはガゼルを認めてないってことになる。あいつらがどれくらいダイヤモンドダストのことを知ってるのかは知らねぇけど、少なくともガゼルは、あいつらに軽んじられていいような奴じゃない。強さだってそうだし、それだけじゃない。理由ははっきり言えないけど、俺はあの時、ガゼルだから一緒にやりたいと思ったんだ。ガゼルじゃなきゃ、どんなに強くてもああは思わなかった。
そう思ったら何か落ち着いてられなくなってきた。無意識に、近くにあったボールを適当に取って、走り始める。

ガゼル。
心の向くまま、俺はガゼルの姿を探した。
またあの気持ちを確かめたい。そしてそれだけじゃない、もっと上まで行きたい。お前と一緒に。

「ノーザンインパクト!」
「!」
ガゼルの声!
駆け付けると、そこはセカンドのグラウンドだった。どこ探してもいねぇと思ったら、こんなところでやってたのか。
ノーザンインパクト打ったばっかで、何となくグラウンドから来る空気がまだひんやり涼しい。凄ぇな、こんなに冷気が続くのか。前に見た時より、確実にパワーアップしてる。
「…」
俺は思わず唇を舐めた。そうこなくっちゃ、負けてらんねぇぜ!
俺は、足元のボールをグラウンドの真ん中にいるガゼル目がけて、思いっきり蹴った。





こんなところまで何しに来たんだ?そう思っていたが、
「やろうぜ。返してこいよ、それ」
バーンが楽しげに挑発してくる。足元のボールを見た。確かに、そういうのも悪くない。
「…いいだろう」
私は足で押さえていたボールを軽くリフトしてから、真っ直ぐバーンに向かって蹴った。


ガゼルからのボールは何の無駄もない直線で、足で押さえるとビリビリ来た。思わず武者震い的な笑いが出る。
「やるじゃねぇ、かっ!!」
俺は逆にカーブをかけて返してやった。


バーンからのボールは左にカーブを切りながら、激しいスピード。しかも後半加速したように見えた。
「!!」
受けたはいいがその場で持ち堪えられず、二歩後ろに退かされた。
「…面白いっ!!」
負けるか、今度は左足だ!


うわっ何だこれ、さっきの倍はスピードあんじゃねぇの?
何とか体で止めたけど、腹が陥没しそうな衝撃だ。完全に止めた時には、だいぶ後ろに下がってた。
さっきのは右足、これは左足。お前左利きだったのかよ。
「…ヤロウ」
俺はボール蹴りあげてからジャンプした。上からの角度つけた方が威力は上がるんだぜ!


隕石か何かが降ってくるみたいだ。重力も味方してか、今度はとても足だけで止められるものじゃなかった。
「ぐっ…!!」
体中に衝撃が響く。気を抜いたら飛ばされそうだ。でも負けたくない!気合いを全部足に込めた。絶対に止める!!止まった時にはグラウンドに引きずられたような痕が私の足から延びていた。
「やってくれる…」
痛いのに、全然有利なんかでもないのに、私は知らず知らず笑みを浮かべていた。全力を出してなお、私をここまで苦戦させる。そんな相手を、私は他に知らない。
(…楽しい)
遠慮せず全力でぶつかり合える。力を認め合える。
これが、私に必要だったもの。
私が、欲しかったものだ。
「受けてみろ、バーン!」
「おぉ、来な!」
そして今、その最高の敵と、味方として共に戦える。
「ノーザン、インパクト!!」
何て幸せなんだろう。


「うぐっ…!!」
やっぱ凄ぇや、さっきまでとも格が違う威力だ。元々キーパー技も吹き飛ばすんだ、そりゃそうだよな。
「うおおおおおおっ!!」
全力で前に蹴り返すつもりで右足に力を込める。なのに全然前に行かないどころか、かえって押されてる。やべぇ、マジで吹っ飛びそう。でもその時俺には、冷や汗と一緒に笑いがこぼれてきてた。
(楽しいじゃん)
もうキャプテンがどうとかあいつらがどうとかは関係ない。ここまでやり合える相手、そんなのこいつ以外いないんだ。
あぁやっぱ、お前最高だぜ!
お前じゃなきゃ、意味がない。
均衡が崩れて、ボールが氷を散らしながら上へ跳ねた。チャンス!
「お返しだぜ、ガゼル!」
「いいだろう、来い!」
一緒に行こうぜ、ジェネシスと、その先まで!
「アトミックフレア!!」



ボールがもう二往復もした頃には、互いに息が上がっていた。足元にボールを止めて、手で汗を拭う。だが、そんなに暑いわけでもないのに、なかなか止まらなかった。
「…んだよ、…もう、限界か?」
バーンが言ってくるのも切れ切れだ。
「…君、こそ」
返す私もうまく喋れているとは言えない。少し休んだ方がいいのは確かだ。


ガゼルはおもむろにドリンクを取りにベンチへ歩いた。…そっか、何か衝動的に来た俺と違って、あいつは元々練習しに来てたんだもんな。俺はその場に座り込んで、それからそのまま仰向けに倒れこんだ。
天井が高い。セカンドのグラウンドはマスターよりは落ちるけど、十分使えるスタジアムだ。夜なのに照明入れてないからあんまり明るくなくて、細かいとこまでは見えない天井に向かって、まだ収まりきらない息を吐く。
すると、その濃いグレーの視界が、急に白に変わった。
「!」
タオルだ。
慌てて起き上がると、ガゼルが横に立ってた。
タオルもドリンクも、自分の分はもうあるみたいで、
「要るか?」
と、自分のを飲みながら別のを俺に差し出してきた。
……ガゼルがそういう優しさ的なもんを持ってるとも、それを俺に対して発揮するとも思ったこともなかったから、俺は目を丸くすることしかできなかった。


「お、おぅ…サンキュ」
他に何の要素もない驚きの表情のまま、バーンはぎこちなくドリンクを受け取った。
だからいつも思うけれど、こいつの中で私はどういうイメージなんだ。人として普通の行為の範囲内なんだから、そんなに驚くことじゃないだろ。
だがそんな細かいことを恨みがましく言うのもスマートじゃない。私は黙って汗を拭った。バーンも、しばらくは躊躇っていたが、やがてドリンクに口をつけた。
「……」
「……」
しばらく互いに何も言わない時間が続いた。別に気まずいわけでもない穏やかな沈黙。少し前までは、バーンとこんな空気を持てるなんて思ってもみなかったけれど、今は何となくしっくりくる。
「…なぁ、ガゼル」
「ん?」
ややあってからバーンがかけてきた声に、
「連携技…やってみねぇか?」
今度は私が驚かされてしまった。


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