fire blizzard
-blizzard 4-
「9番って…何だよ?」
目が合って5秒、バーンに言われた。9番、とまで口に出していたか。私も相当ボーッとしていたらしい。でもそれにしてもバーンは驚き過ぎだ。
「何って何だ。私の背番号以外にあるか」
「―――」
バーンは声を失ったままだ。そこまで驚くことか?一体奴の中で私はどういうイメージだったんだ。
それならそれで、期待に応えてやるさ。ちょうど、プロミネンスのキャプテンマークがバーンの腕から外れて机の上にあった。それを指で拾い上げ、
「…何だ?そんなに要らないんだったら、遠慮なくもらうけど?」
指先で弄びながら言えば、
「いやいやいや!何言ってやがる!10番は俺!決まりな!」
瞬く間に取り返された。
何だ、やっぱりキャプテンやりたいんじゃないか。なら最初から素直にそう言えばいいのに。そんな思いをこめて、私は肩をすくめてみせた。
「何だその顔!」
「別に」
つっかかってくるバーン。受け流すつもりで答えれば、
「…おいおい、キャプテンに向かって生意気じゃねぇのか、9番?」
……調子に乗りすぎじゃないか?
「…何だと?このチューリップ頭」
「お前に言われたかねぇよ髪型超次元!!」
そうして結局下らない喧嘩が始まった。バーンは元々、良くも悪くもすぐ熱くなる質だ。少しの挑発で簡単に喧嘩になる。私だって譲ってばかりの性格ではないからな。10番はどちらか一人でも、実質トップ二人で立場も対等、ある程度の小競り合いは避けられないだろう。
「あとで後悔すんじゃねぇぞ?俺はキャプテン譲らねぇからな!」
けど、まぁ。この件に関しては。
ただ決定に不服で大暴れしたいだけならプロミネンスだけでも良かったものを、私の手を取りに来てくれたのは、君の方からだから。
(…分かってるよ、キャプテン)
戦う前から、君の勝ちさ。
もう一つ、ユニホームやキャプテンより余程深刻な、越えなければならない壁があった。
メンバーの選出だ。
「プロミネンスと組むことになった。キャプテンはバーンだ。協力を頼むぞ」
そう告げた時のチームの困惑の表情といったらない。無理もない、と私も思う。今までライバルだったチームだし、何よりダイヤモンドダストは元々バーンみたいな暑苦しいのが苦手な連中ばかりだ。
「……」
だがそれでも、不服を述べる者はいなかった。
彼らはいつもそうだ。私が服従を強いたことはないのに、私によく従ってくれる。私の意志や行動の意味を察してくれる。その統一こそが、プロミネンスにはないダイヤモンドダストの強みだった。
(……)
そして私は、そのことに誇りを持っていた。
けれど。
ここにいる誇らしいチームメイトのうちの、たった4人しか、一緒に連れては行けない。
バーンと組んでもっと上を目指したい。それに変わりはないし、後悔もしてない。―――だが、代償は大きい。途方もなく。何より、私のわがままにチームを巻き込んでしまったのではないかと不安になる。
「…様!」
ハッと我に返る。アイシーが私を呼んでいたようだった。
「ガゼル様、どうかしたんですか?」
「い、いや…。とにかく、そういうわけだ。いつも以上に力を入れて練習しろ」
「……」
慌てて言葉を並べれば、アイシーは困ったような心配なような表情を浮かべて黙りこんだ。やっぱり簡単に受け入れられるものじゃないよな。私もどうしていいやら、迷っていると、
「…ガゼル様が、そうしてみたいと思われたのですよね?」
あらぬ方から声がした
。
「…ベルガ」
私が呟くと、彼はニッと笑った。
「ならば我々も、どこまででもついて行きます。プロミネンスと共に、最強を目指しましょう」
見れば、その言葉に他のメンバーも笑顔を浮かべて私を見ていた。
「……」
やっぱり、私のチームは最高だ。
あまりニヤニヤ笑うのは好きな質ではないけれど、今は、つい表情が緩むのを抑えられなかった。
夜。
私はまたセカンドのグラウンドに来ていた。
『ガゼル様がそう思われたなら、我々もどこまでもついて行きます』
私のためにこのわがままを受け入れてくれたチームのためにも、今度の戦いで全てを決める。そのためにはもっともっと強くならなければ。
「ノーザンインパクト!!」
ゴールにボールが刺さる。その勢いが、打つ度に上がっていくのを感じる。悪くない。
シュートの威力だけじゃない。もっと速く、もっと確実に。バーンもいるんだったら、気配を消して相手の側に潜り込むことも、今までよりももっとできるようになるだろう。それも磨いておきたい。
とりあえず、もう一本打つか。私はゴール前に転がったボールを取りに行こうとした。
その時。
急に背後からボールが飛んでくる音がした。空気を裂く気配が、私を目指している。
「!」
振り返りざま足で止める。
見れば回転が止まりきらないボールから、小さな炎が散っていた。
「こんなとこでやってたのか」
その炎を裏付ける声が闇の中から聞こえて、それに続いて声の主が姿を現した。
「…バーン」
驚いた。ここなら誰も来ないと思っていたのに。
バーンはグラウンドの中に歩いてきて、私の逆サイドに立った。そして私に向かって、例のニッと笑う笑みを浮かべる。
「やろうぜ。返してこいよ、それ」
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