fire blizzard
-fire 4-
「まさか、あのお方がガイアをジェネシスに選ぶとはな」
ガゼルは例の平坦な調子だった。それを聞いて、また怒りが戻ってくる。
「絶対認めねぇっ!!」
俺は持ってきていたエイリアボールを蹴りつけた。ボールが乱暴な音を立てて跳ね返る。知るかっての!
「ガイアがジェネシスなぞは認めねぇ!!雷門に引き分けたお前はともかく、俺はグランに負けちゃいねぇっ!!」
ガゼルの青い目が、妙に静かな光で俺を見てる。俺は、もう何でもかんでも当たり散らしたい気分だったから、またガゼルの神経を逆撫でしようとした。
だが。
「引き分けたのは結果に過ぎない。私は彼らと勝負を楽しんでいただけだ」
今度は、全くと言っていいくらい動じない。
何だよ。何なんだよお前、なんでそんな冷静でいられるんだ。ホントにそれでいいってのかよ。
そんなはずないだろ。お前だって、めちゃめちゃ悔しいはず。
だって、俺とお前の立場は同じ。
気持ちだって、同じはずだ。
『このユニホームを着れば気持ちは一つ!』
「!」
一瞬、また円堂のあの声がよぎった。
「……、」
そうか、と、ほとんど本能的に思う。
俺は。
お前とやってみたいんだ。
俺とお前が気持ちを一つにしたら、どこまで行けるのか見てみたいんだ。
―――あぁ、これか。
これが、あのモヤモヤの答えだ。
そう思ったら、自然に笑えてきた。
「どうだ、大暴れしてみる気はないか」
「…私と組もうというのか」
一見、ガゼルに動揺した様子はなかった。でも全然興味ないなんてはずはない。
俺は更に言った。
「そんな甘っちょろいもんじゃねぇ」
ガゼルが目を開けた。ほらな、やっぱ食い付いてくるじゃねぇか。
「二人であのグランに思い知らせてやんだよ。上には上がいるってことをな」
「面白い…その話、乗せてもらおう」
よっしゃ来た!
「グランを倒し、ジェネシスの称号を奪い取ってやる!」
「そして、ジェネシス計画にふさわしいのは誰かということを、あのお方に示すのだ」
絶対にグランを倒す。俺たちが当て馬なんかじゃないこと、証明してやる。
ジェネシス、だけじゃ甘いな。
「ネオ・ジェネシス計画を、ここに発動する!」
取り合った手は、ちょっと冷たかった。
こんなとこまで、俺とお前は正反対。
だけど、だからこそ。
何だよこれ結構めんどくせぇな。
「色はどうすんだ?」
「赤と青にするしかないだろ」
ガゼルと二人、ユニホーム作りであーだこーだ。プロミネンスの時、こんな苦労したっけ?
「混ぜて紫とか!どうよ?」
「描いてみろよ」
「……」
「……」
これはねぇな、どっちも残ってない。俺たちは正反対だからこそ、ってのが全然出やしねぇ。
「ちょっと貸せ。…どうだ、これなら赤と青でもいけるだろう」
ふーんなるほど。てかガゼルって意外と絵描けんだな。
「描いてみると確かに紫よりは断然いいよなぁ…よっしゃもういいや、これで決まりだ!」
他んとこも、プロミネンスとダイヤモンドダストの間をとってって、大体終わった。
「……」
あとはこれだけか。
あー何か早速喧嘩になりそう。
「…で、こんな感じで背番号が入るってわけだ。やっぱ白より黒だな」
なるべくさりげなく言ってはみたが。
背番号。
ここは絶対修羅場だろ。
今までは二人ともキャプテン番号の10番。なら、絶対取り合いになるに決まってる。互いに譲る気なんてないだろうし。
…ま、それはしょうがねぇか。要は、フェアに取り合って勝ちゃいいんだろ。
タッチペンを出せ!みたいな展開を、俺が覚悟した、その時。
「何番にしようかな…」
……は?
今なんつった?
俺は思わずガゼルを見た。ガゼルは頬杖ついて心ここにあらずみたいな顔だった。
「11番はグランと同じだし…やっぱり9番か…」
えっちょっと何言ってんだよお前?
ガゼルがふと我に返って俺の方を見てきた。
目が合う、5秒。
やべっ。何か、何か言わねぇと。
「9番って…何だよ?」
うわ、自分でも意味分かんねぇ質問。
「何って何だ。私の背番号以外にあるか」
ガゼルは怪訝な顔で、淡々と言ってのける。
…マジかよ?
喧嘩まで覚悟してただけにあまりに予想外で、俺はしばらく言葉が出なかった。
そしたら、ガゼルが何かいきなりどや顔になった。今度は何だ?とか思ってる間に、奴はキャプテンマークを指で拾って、
「…何だ?そんなに要らないんだったら、遠慮なくもらうけど?」
クルクル回しながらそんなこと言い出したんで、
「いやいやいや!何言ってやがる!10番は俺!決まりな!」
俺は慌ててキャプテンマークを取り返した。
ガゼルは、一瞬空になった指をポカンと見たあと、呆れたように肩をすくめた。
「何だその顔!」
「別に」
「…おいおい、キャプテンに向かって生意気じゃねぇのか、9番?」
「…何だと?このチューリップ頭」
「お前に言われたかねぇよ髪型超次元!!」
何だ、せっかく喧嘩回避したと思ったのに、結局こんな下らねぇことでこうなるんだな。
「あとで後悔すんじゃねぇぞ?俺はキャプテン譲らねぇからな!」
粗方言い争ったあと、捨てゼリフのつもりでそう言った、
その一瞬。
ガゼルは、ふっと表情を和らげた。
「!」
思わず息が止まった。
何だよ、
……それは、反則だろ。
prev/
next
back