fire blizzard
-blizzard 3-
少し意外だった。
あいつがこの決定に納得しないことは分かっていた。ある程度望み薄だと分かっていた私だって、そう易々と受け入れられるものではなかったのだから。
でも、最初に来るのが私のところだとは、思っていなかった。
「…バーン」
口をついて出た名前。
そうしたらあいつも私の名前を。
「聞いたかガゼル」
「まさか、あのお方がガイアをジェネシスに選ぶとはな」
用件がそれなのは分かっている。私は努めて淡々と言った。
「絶対認めねぇっ!!」
バーンは足元に持ってきていたエイリアボールを蹴りつけた。
ボールが乱暴な音を立てて跳ね返る。その音の激しさと同じくらい、彼の金色の目がぎらついている。無理もない。それだけの仕打ちだと、私でも思う。
「ガイアがジェネシスなぞは認めねぇ!!雷門に引き分けたお前はともかく、俺はグランに負けちゃいねぇっ!!」
またあの試合のことか。
だが、どういうわけか今は、それを言われて苛ついたり焦ったりという気は起こらなかった。行き場のない怒りをぶちまけるバーンを前に、何故か落ち着いてさえくるような、静かな気分が広がる。自分でも不思議だった。
「…引き分けたのは結果に過ぎない。私は彼らと勝負を楽しんでいただけだ」
それでも、一応そう言っておく。結果が一番大事だと言われればそれまでなのは分かっているけど、私だって、実力や熱意でグランに負けていると認めるわけではないから。
一瞬の間の後。
「どうだ、大暴れしてみる気はないか」
予想していたような、予想もしなかったような提案。
「…私と組もうというのか」
目を閉じたままで答えると、
「そんな甘っちょろいもんじゃねぇ」
とすぐに言うバーン。顔を見てみた。不敵に笑う、いつもの顔に戻っていた。
「二人であのグランに思い知らせてやんだよ。上には上がいるってことをな」
二人で。
その言葉で、引っ掛かっていたものが溶けたような気がした。
二人で。
『このユニホームを着れば気持ちは一つ!』
なるほどな。
そういうことか。
「面白い…その話、乗せてもらおう」
「グランを倒し、ジェネシスの称号を奪い取ってやる!」
「そして、ジェネシス計画にふさわしいのは誰かということを、あのお方に示すのだ」
一番になるために、私に足りなかったもの。
それは、同じ高さで、隣に立って、互いを高め合える仲間。
時にしのぎを削り、ぶつかり合いながらも、同じ一つの目標を共に目指す仲間。
それは――バーン。君だったんだな。
「ネオ・ジェネシス計画を、ここに発動する!」
取り合った手は、予想を裏切らず、私より少し熱かった。
何だか、どこまでだって行けるような気がした。
このユニホームを着れば気持ちは一つ!
何度煩わされたか知らないこの言葉をついに実行する。だがそのためには、結構地味な作業が待っていた。
「色はどうすんだ?」
「赤と青にするしかないだろ」
「でもチカチカすんだろ。目に優しくない」
「かと言って他に何がある?白を入れても案外うるさいぞ」
バーンと二人、机に向かってユニホームのデザイン大会。バカバカしくも思えるが、これをしないとユニホームはできないから、案外外せないことなのだ。
「混ぜて紫とか!どうよ?」
「描いてみろよ」
「……」
「……」
微妙だ。悪くはないが、元のチームの色が消えていると、個性を潰された気分になる。作りたいのはそんなチームじゃない。
「ちょっと貸せ。…どうだ、これなら赤と青でもいけるだろう」
「描いてみると確かに紫よりは断然いいよなぁ…よっしゃもういいや、これで決まりだ!」
「襟と袖がまだだ。私は長袖は嫌だぞ。暑い」
「あぁ?袖がなきゃスースーするだろうが!」
そんなこんなを繰り返しているうちに、大体プロミネンスとダイヤモンドダストの間をとったものに収まっていった。
そして最後の細かい詰めをしている時。
「で、こんな感じで背番号が入るってわけだ。やっぱ白より黒だな」
「……」
背番号、か。
そう言えばそんなものもあったな。
今までは考える必要がなかったけれど、それまでと同じ――キャプテン番号の10番――ではバーンと被る。
「何番にしようかな…」
ぼんやり考えていたことが、無意識に声に出ていたらしい。ふと我に返ると、バーンがポカーンとした間抜け面で私を見ていた。
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