fire blizzard
-blizzard 2-
前までは、もしジェネシス争いから脱落したらすぐにでも追放されるのだろうと思っていたのだが、実際はそんなこともなかった。
どういう扱いなのだろう、私とダイヤモンドダストは?こうして中途半端な状態であることに、何か意味はあるのだろうか。ただ負けていないから追放するほどでもないというだけなのか。それともまだ私たちにも狙い目があるというのか。引き分けという結果そのもののような、どっちつかずの状態だ。
考えてどうこうできるものでもない。こういう時には体を動かして頭を空にしたい。だが今までなら当然のようにしてきたチームでの練習も、今まで通りにしていいのかどうか。
(…追放されていない以上、練習で文句を言われる筋合いはないはずだが)
あの方が何と言われるかも気になるが、ガイアやプロミネンスの奴らに見られたら、それとは別に激しく面倒なことになりそうで憂鬱になる。あいつらの目に触れない、例えばセカンドのグラウンドなら使ってる奴もいないだろうか。あとは夜中とか?……チーム練習はそれでいいとしても、私は今動きたい。個人で練習できるところはないか。モヤモヤと考えながら、私の足は自然と練習場へと向いていた。
無意識に辿り着いたのは、いつも使っているマスターのグラウンドだった。ここが空いているとは期待していなかったが――案の定、先客がいた。
目に入った瞬間にそれと分かる赤。
プロミネンスだ。
「……」
そしていくら赤いと言えど、頭まで赤いのはあいつ一人。
泳いでいた自分の目が、あいつを見付けたらピタリと止まった。
どうして探したかという自問は意図的に封印して、
どうして探さないと見付からなかったかと言えば、奴らがグラウンドの不自然な一部分に密集していたからだった。
大丈夫か、という声が重なるように聞こえてくる。誰かが怪我したようだ。よく見ると、あいつが真ん中で人一倍心配そうな顔――それこそ私は見たことがないような顔をしている。どうも、チームメイトにあいつのアトミックフレアがぶつかったようだ。
(それは…しんどいだろうな)
想像して思わず同情した。私たちの必殺シュートはキーパーを吹き飛ばすだけの力がある。
あいつのあの表情も、無理もないというところだろう。
「バーン様、気を付けて下さいよ〜」
「そうですよ、よりによって女の子っすか」
「うるせぇな!」
チームメイトがからかうような声をかけている。何だ、あいつ、随分チームメイトと仲がいいんだな。プロミネンスの中の様子なんてなかなか見ないから、何だか新鮮だ。
そう思った時。
『このユニホームを着れば気持ちは一つ!』
「…!」
また、だった。またあの円堂守の声が頭に響く。
何故このタイミングで?――その答えを繋げていこうとすると、ぼんやり浮かび上がりそうになる何か。
(……違う)
思わず眉を寄せる。
そんなはずは、ない。
ふと、あいつが目を上げた。
あいつの金が私の青を見つける。
怪訝な、でもそれだけではないような表情が、あいつの顔に浮かぶ。
目が合った。5秒。
私は踵を返した。
他にどう反応していいのか、分からなかった。
当初考えていた通り、セカンドのグラウンドは誰にも使われず打ち捨てられていた。練習するだけならこれで十分事足りる。私はこのグラウンドを使うことにした。
一通り準備運動をした後、ボールを無人のゴールに蹴り込む。ボールがゴールネットに刺さって、足元まで戻ってくる。またシュートする。その繰り返し。やっぱりこういう時には単調な動きの方がいい。
『情けない野郎だ、自分から喧嘩売っといて引き分けとはなぁ?』
いい、と思っていたのだが。
『ただの人間に勝てないお前らに、ジェネシスの称号なんざ要らねぇだろ』
気付いたら、あいつの声が追い掛けてきていた。
そりゃあそうさ。言われるまでもなく、勝てなかったことは自分でも情けない。
でも、何もあんな風に言わなくたって。私が君に何かしたわけじゃないだろ。
「…ノーザン…」
なのに、そんな風に言われているのに、
「インパクト!!」
何かをあいつに求めようというのか、私は。
私には私のダイヤモンドダストが、あいつにはあいつのプロミネンスがあって、
形は違うけど自分のチームが大事だし一番だという自信もあって、
「ノーザンインパクト!!」
それだけで良かったのに。
跳ね返ってきたボールが私の足元で止まる。
勝てなかった。
私は勝てなかったんだ。
グランは勝った。
あいつは勝てるんだろうか。
そうしたら、私だけが劣っている、ということになる。
あいつに、置いて行かれてしまう――。
「ノーザンインパクト!!」
暗さを増していく考えを、振り払うようにもう一発。私の自慢の必殺技は、それを後押ししてくれるように、美しい直線を描いてゴールに刺さった。
きっと――私たちは、プロミネンスの結果待ちなのだ。プロミネンスが勝つか負けるか引き分けるか、それでまた、形勢がガラリと変わるに違いない。
「……」
流れ落ちそうになっている額の汗を手で拭った。
もう何発か、打って行こう。
「ガゼル様!」
その、二日後だった。
「あのお方が…ガイアをジェネシスに正式に選ばれたと…!」
血相を変えたドロルと共に、その知らせが私の元へ届いたのは。
(プロミネンスがまだ何もしていないのに、か…?!)
不覚にも、最初に思ったのは、そのことだった。
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