fire blizzard

-fire 2-

結局あいつは雷門と引き分けに終わった。俺にとっては一番いい結果だった。負けたら流石に後味悪ぃけど、ただの人間に勝てなかったってんであいつが一歩後退してくれるのは間違いない。そしたらあとはあのグランを追いやれば、俺らプ ロミネンスがジェネシスだ!
あいつは――試合中はあんなテンパってたくせに、次見たらもうすました顔に戻ってた。そうすると何かまたあの時のモヤモヤが戻ってきて、うざい。…結局それが何かは分かんねぇままだけど、原因がこいつならこいつに戻しゃいいだけだ 。遠慮せずとことん潰してやる。
「同点は敗北と同じ、だっけ?…ということは、今のお前は」
「私は負けたわけではない!」
お、いいねぇその威勢。と思ったら、
「雷門のスペックは十分に把握した。勝利は確実だ」
すぐ元に戻りやがる。チッ、何なんだよ。結局俺のモヤモヤは収まらない。
そのあとも色々言ってやったが、今度は脱落を宣告されて流石にショックだったらしい、妙に大人しくなっちまった。それはそれで面白くない。じゃあどうして欲しいんだよ、って自分でも思うけど、そんなん分かりゃ苦労はしねぇよ。

「いいかお前ら!ジェネシスまであと一歩のとこまで来てる。気合い入れてやれよ!」
そのあとの練習で、俺はプロミネンスの奴らに喝を入れた。
「はいっ、バーン様!!」
チームの返事も威勢がいい。俺がわざわざ言わなくても、奴らも士気が上がってるんだ。流石プロミネンス、俺のチームだぜ。
そう思って満足した瞬間、
『私は負けない、ダイヤモンドダストの名にかけて…!』
「…!」
あの試合のあいつとあいつのチームがフラッシュバックした。
テンパりながらも相手の隙を狙うあいつと、無言でそれに応えるダイヤモンドダスト。
『このユニホームを着れば気持ちは一つ!』
それに、あの妙に引っ掛かった円堂の言葉。
(うぜぇな…出てくんじゃねぇよ!)
俺は無意識に舌打ちしていた。あいつらはもう脱落したんだ。チームの出来もこっちのがあっちより上だし、俺がチームを想う気持ちとかチームが俺を想う気持ちとかそういうのだって、負けてるとは思えない。要するにプロミネンスのがダイヤモンドダストより上だし、俺のがあいつより上。あんな試合のこと未だに気 にしててどうするんだ。あんな試合のことなんか、あいつのことなんか忘れろ。
(俺は上なんだ…それを徹底的に証明してやる!)
「アトミックフレア!!」
自慢のシュートに磨きをかける。
(あいつなんか、足元にも及ばなくしてやる!)
ずっと続いてる謎の苛立ちも一緒に紅蓮の炎で焼き尽くすつもりで、俺は何発も打ち込んでた。
「バーン様!」
「ん?…ってうわっ!!」
ヒートの呼ぶ声で気付くと、俺の足元が狂ったらしく、近くにいたボニトナにアトミックフレアが直撃してるところだった。
「キャアアッ」
奴らしくない素直な悲鳴のあと、その場に倒れるボニトナ。俺は、いや俺だけじゃなくみんな、慌てて駆け寄った。
「大丈夫か、ボニトナ?!」
「う…ん、……だ、大丈夫です!…あ痛っ」
「バカ、無理すんな!」
無理に体を起こそうとするボニトナを、俺は思わず荒っぽく止め、救護室に運ぶ手配をさせた。
「バーン様、気を付けて下さいよ〜」
「そうですよ、よりによって女の子っすか」
「うるせぇな!」
レアンとネッパーがゴチャゴチャ言ってくるのはマジでうるさかったが、やっちまったのはホントに俺が悪い。
「悪ぃな…マジで大丈夫か」
ボニトナに声をかけると、
「ホント、大したことありませんから。でもバーン様、アトミックフレア外すなんて、珍しいですね」
ボニトナは笑顔を浮かべて、そんなことを答えた。
「ホント、珍しいですね。どうかしたんですか?」
サトスがそれに応じて聞いてくる。
「何もねぇよ!人の失敗にツッコむんじゃねぇ!」
「す、すいません!」
思わずイラッとして言い返したが、そのツッコミはある程度的を得ていたかもしれない。要するに、図星って奴だ。
(何もなくは…ねぇよな)
また外野に言われるのもうざいから、内心だけで溜息をつく。
俺のプロミネンス。
あいつのダイヤモンドダスト。
『このユニホームを着れば気持ちは一つ!』
(だーっクソッ、らしくねぇんだよ、こんなん!)
あいつじゃないけど、頭を掻きむしりたい気分になった。

ふと、何となく目を上げると、
上の階の通路に、青。
あいつがいた。
その動きのない青い視線で、
俺を、俺のチームを見下ろしている。

目が合った。5秒。

その間もそのあとも大した動揺もなく、
あいつはUターンして去って行った。


prev/next
back