焔刃氷華

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だって、他にどうすれば良かったんだろう。

いらなくなったのなら、望みがなかったのなら、もっと早くに切り捨ててくれたら良かったのに。

放っておいて、可能性だけ期待させて、それなのに試合が終わるのも待ってくれないなんて。

そんな、ひどい。

***********

雷門との試合を強制的に中止された後、俺達を待っていたのは監禁だった。

追放には何パターンかあるって聞いたことはあったけど、こんなのもあったんだな。頭のどっかがすっごい冷静にそう思ってた。粗方暴れて疲れきってたってのもあるかもしれねぇけど。

試合から連れて帰られたら、もうグランに文句言う暇もなく、変な大人達が俺達をバラッバラに引き離した。ネッパー、ボンバ、バーラ、グレント、ヒート。それにダイヤモンドダストの側の、ドロル、リオーネ、クララ、ゴッカ。あいつらがどうされたのか、似たような感じで監禁されてんのか、それとも記憶消されて追放されてんのか。全然、欠片も分かりゃしねえ。どれだったとしてもゾッとする話だけど、何も知らないでいるよりはマシなのに。それにカオスに連れてけなかった残りの奴らも、どうなっちまったんだろう。
それと―――ガゼル。ずっといがみ合ってきたけど、やっと理解しあえたダイヤモンドダストのキャプテン。あいつと一緒にならどこまでも行ける!って思ったのに、また離れ離れになっちまった。でも、ガゼルに関しては多分、俺と同じでどっかに閉じ込められてるんだろうって予想はつく。カオスのキャプテンは俺で、あいつもそれを認めてくれてたけど、俺達は同格だ。こういうのの扱いだって同じなはずだ。

放り込まれた部屋は狭くて暗くて、マジで牢屋かよって感じ。でもただの牢屋じゃないのは明白で、外の音は全然入ってこない。俺がでどんだけ暴れても騒いでも誰もビクともしないの見ると、多分中の音も外には伝わらない。こんなとこに無駄な科学力使うなよ、って思う。

とりあえず騒いだり逃げ道探したり聞き耳立てたり、できることは全部やってみたけど、何も変わらなかった。仕方なく大人しくしてみたら、今度は退屈と不安で死にそうになる。これからずっとこうなのか?いつまで?死ぬまで?それとも途中で何か他のことされるとか?あとの奴らは?
それと―――これはあの人が、父さんが決めたことなのか?もしそうならあの人とんでもねぇ悪者だったんだな、ってことになる。何せ拾った子供達を利用して競わせて、使えなくなった奴から切り捨てて、そいつらがみんなこんな扱い、って。凄い話だ。

けどそれでも――あの人が拾ってくれなかったらもっと凄い地獄に落ちてたんじゃねぇかって考えたら、仕方ないのかなとも思う。元々俺には運がなかったってことだ。ちょっとの間は楽しい思いもしたんだし、どっちかってならこっちの方が断然マシ。

そう、だから、俺はいいんだ。

あとの奴らのことだけが。

ガゼルのことだけが。



気付いたらちょっと寝てて、夢見てた。

カオスを組んだ時の夢。

『どうだ、大暴れしてみる気はないか』
『…私と組もうというのか』
『二人であのグランに思い知らせてやんだよ。上には上がいるってことをな』
『面白い…その話、乗せてもらおう』

二人でなら何でもできる。そう思ってた。

あの時は、楽しかったな。

「……」
そこで夢は終わって、目が覚めた。
低くて黒っぽい天井に現実に引き戻される。

実際は――二人だけじゃ何にもできない、ただのガキだった。

今まで箱の中で守られてたからサッカーだけはやらせてもらえてたけど、こうやって、大人が決めたことには絶対逆らえないんだ。もし逆らったら、多分自力で生きてける力なんて全然ないから。

分かってたつもりだったけど。

「……」
畜生、って言いたかった。けどそう呟くのも悔しくて、代わりに奥歯を噛む。

悔しい。結局何もできやしねえ。
どこにいるかも分からねぇ仲間も、どこかにはいるガゼルも、どうにもしてやれない。自分さえ。

『はい、バーン様!』
『私達が組めば負けるはずはない』

あんなに信頼してくれてたのに。

『おやすみ、私のキャプテン』

「……っ」
畜生、せめて、会えれば。
お前の存在を確かめられれば。
それだけで、全然安心できるのに。この状況だって全然耐えられるのに。

『君と組めて良かった』

ガゼル。




会いたい。


***********

ふと目が覚めた。

何となく、とても愛しいものに呼ばれた気がして。

『ガゼル』

掴みどころのない響きでぼやけたその声。

私をガゼルと呼べるのは三人だけだ。あの方、グラン、それにバーン。

(……多分、バーンだ)

気のせいかもしれないのに、私はそんな風に思った。

光も音もほとんど遮断されたこの部屋で、温度を持っていた久しぶりの感覚。見逃すわけにはいかない。

(…どうしたの、君がそんな声を出すなんてさ)

頭の中で、バーンに話し掛ける。返事なんかあるわけはないけど。
実際には、彼の姿も声も所在の証拠さえ、欠片も見出せない。どの情報も入ってこないが、中でも仲間や彼のことは徹底して情報が遮断されている。一番知りたいことが何なのかよく分かってるんだな、と思う。

でもこんな扱いだって、私はいい。雷門に勝てなかったのにしがみついて、往生際が悪かったのは事実。相応の罰と思える。

でも。

チームは。
バーンは。

同じような扱いを受けているとするなら、私が巻き込んでしまったんだ。こんなの私一人で良かったはずなのに、私が諦めたくない自分勝手でみんなまで引きずり込んだ。カオスが望み薄なのは分かっていたはず。あの時本当ならバーンの手を取るべきじゃなかったのに。甘い誘惑に負けて論理的な判断ができなかったあの時の自分が恨めしい。

そう思ったら、無駄だと分かっていても大人しくなんてしていられなかった。普段なら、私だけならそんな無駄なことしないけど、全力で抵抗を示した。さんざん暴れて騒いで、部屋も壊そうとした。もちろんビクともしなかったけど。


今のバーンの声。

聞いたことない、君のそんな弱々しい声。

きっと君も私と同じで、暴れて疲れて、そうしたら不安になって。

「……」

ごめんね、と心の中で呟く。

そんな思いをさせたかったわけじゃなかった。
でも、バーンでも同じなんだって、一緒なんだって思ったら、それだけでこの状況にも耐えられるような気がした。

本当は今すぐ会いに行きたい。会って謝りたいし、他にも色々話したい。
けどそれが叶わないなら、心の中にいてくれるだけでもいい。閉じた瞼の裏で君が笑う、それだけで私は何でも乗り越えられる。




そう、思っていた。




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