後ろ姿

-3-

オレが出ていくと、ネッパーはしばらくうつ伏せのままでいた後だるそうに体を起こした。大体、こういうことの後って何て言ったらいいのか分からない。
ネッパーは慎重に這いずるように移動して、床に落ちてたタオルを拾った。二枚あったらしくて片方投げて寄越してくれた。
「あ、ありがと」
「……」
ネッパーは無言だったが、格別に不機嫌というわけじゃないのは分かっていた。単純に黙っていたい時に黙っている奴なんだ。とは言え、こっちも何を言っていいか分からない状態で黙られると、気まずさの拭えない沈黙が降りてしまう。仕方なくオレはもらったタオルで簡単に体を拭う。風呂はもう終わっちゃってる、どころか消灯も過ぎてるから、後始末しようにもこれしかない。でもオレよりよっぽどネッパーの方が大変だろうから、何とも言えなかった。
「泊まってくだろ…その辺のクッション適当に使って寝てくれ」
ネッパーがぶっきらぼうに言う。消灯過ぎてだいぶ経つから、今から部屋に帰るより確かにその方が無難かもしれない。けどそもそもオレは何しにここに来たんだ?結局こんなことになって、したい話の半分もできてないような。…あぁ、でも、してもしなくても同じなのかもしれない。ネッパーが何を考えてるかは、話すよりずっと思い知った気がする。

それなら。

「…ねぇ、ネッパー」
ネッパーは体を拭き続けながら黙って目だけこっちに寄越した。オレは何とか笑って、呟くようにそれを言った。
「オレ、やっぱりGKの話受けようと思うよ」
「……」
ネッパーの目には、今度は何の変化もなかった。
手が止まることもなかった。

しばらくそのまま無言の時間があってから、
「…じゃあそうすれば」
ネッパーは自分の体に目を戻しながら、ポツリとそう言った。


体を拭うネッパーを見ながら思う。いつもオレの上にいて、目標でいてくれたネッパー。今度はオレが先に行って、目標なんかになれなくてもいい、ただ君がまた歩き出す気になれた時に、道を示す道標になれればと思う。

オレ達が並んで歩けるようになるのはいつなんだろう。
分からない。でも、ネッパーの姿を見ていたら、そのためならいつまででも待っていようと思った。



ネッパーの人睦月様に差し上げました。一回書き上げたと思った瞬間Aのデータが飛ぶという惨劇が…。そしてネッパーの口調が行方不明。

prev
裏へ戻る
back