sunflower


※『雨に濡れる・律』『夢の底にて』後日


昔、女物の麦わら帽子を間違って買ったことがあった。

間違って買ったというか通販だったと思うんだけど、帽子部分はまぁいいとして、どうしてこの色にした、ってくらいド派手なグリーンのリボンに、大振りの花飾りまでついてたときて、注文間違いにしてもどの部分を見て間違えた、向こうの間違いだったら余計あり得ない、そう言って俺は返品しようとしてた。
「いや、これでいい」
と思ったら、風介の方がそんな突拍子もないこと言い出して、俺は心底呆れた。

「さすがにねーだろ。女物にも程があるぞ」
「いいんじゃない、女なのはある意味そうだし」
「いやソレとは別にあり得ない。お前鏡見ろよ、男の中の男みてーな顔しやがって」
「そう…確かに顔から言ったら君の方が似合うかもねぇ」
「ケンカ売ってんのか」

「それはともかく、この帽子は私がもらいたいから」
結局、下らない言い合いをいくらしても、風介がその帽子を手放そうとはしなかった。


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10年前、風介は右足を切った。

それから何年も経って色々あって、最近になったら風介同士が入れ替わるみたいな意味の分からない出来事まであって、ようやく俺もプロの生活に慣れてきた頃、俺はそれを再発見した。
「これ…引越しの時にも捨てなかったのかよ」
珍しく、俺はオフで、風介は仕事だったから留守という状況だった。女物の派手な帽子、後生大事に持ってる割に、あいつがこれを被っているところは見たことがない。さすがに女装趣味はなかったってことかな、と思うけど、それだったらどうしてそんなに大事にしてんのかな。
そう思って色々見てたら、一回も使ってないけど少しだけ色褪せたグリーンのリボンの、花飾りがくっついているところに、刺繍があるのが見えた。

"SUNFLOWER: brilliance, passionately devoted to you"

その花飾りに使われてる造花のもとの花の名前と、何か詩?みたいなのが書いてある。brillianceは光?その後に書いてあるのは一体…。

「……」

俺はまさかと思って、自分一人じゃ絶対考えつきもしない語句をパソコンで検索した。

『ヒマワリ 花言葉』



「……」
あいつは10年以上前から、最初にこのリボン刺繍を見た時からその意味が分かって、それで取っとこうって言ったんだろうか。

太陽の花、考えれば考えるほど他に思い当たることがなくて、俺は思わず頭を抱える。

『君と一緒の未来を』
『私を気遣うなんて、君らしくない』
『地に特に解すな』

『晴矢』

あー、だめだ、俺は出掛けることにした。
日射しがそろそろ梅雨の終わりを知らせている。今なら十分あるだろう。

このままでいいはずあるか、俺はあいつをこの上なく幸せにしてやらなきゃいけない。


「すいません、その向日葵20本束にして下さい」
「メッセージおつけしますか?」
「……ちょっと待ってて下さいますかね」

『野意ののらみ特に解のなし地土地に』

「…………え、っと…本当にこちらでよろしいんですか?」
「はい。…あ、リボンは緑で」

あと帰りに、安っぽい金の、おもちゃの指輪でも買って帰ろう。




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向日葵 花言葉:憧れ、あなただけを見つめる、崇拝、熱愛、光輝、愛慕、いつわりの富、にせ金貨



2012.7.3 ハウスさんHappy birthday!

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久しぶりに期日どおり(…)誕生日プレゼントとしてハウスさんに差し上げました。続き物なんかで申し訳ないです…_(:3」∠)_