DUST
抱くならめちゃくちゃグラマーな女がいいと思ってた。なのにどうしてこうなったのか。俺にも分からない。気付いたら線のこっち側に来てた。最初にそうなったのは何でだったか。確か夜誰もいないフィールドで訓練しようとしたら場所がかち合って、口喧嘩してるうちに殴り合いになって、何かの拍子で上から押さえつけたら妙に興奮したから無理矢理ヤったんだ。ロクでもねえ。けどその次は、それから一週間くらいの時にガゼルの方から誘いをかけてきた。あんなのでも味をしめたらしい。女だったらあり得ないその精神的な逞しさと見かけによらない淫乱さに興味が出て、俺はそれに乗っかった。それ以来何だかんだと体の関係が続いている。
その日は、プロミネンスとダイヤモンドダストの練習試合があった。試合は2-1で俺らの勝ち。最後ガゼルがノーザンを入れたんだけど、オフサイドでノーゴールになり、そのままタイムアップになった。引き分けが多いこのカードで勝ちをとれるってことが珍しくて、で多分向こうは負けるのが珍しくて、俺らはかなり得意気な気分になったし、向こうは相当悔しがってた。ガゼルの、例の前髪を掴む癖を見たのもどれくらいぶりだっただろう。俺らの方は見ないで、でもチームメイトの方も見ないで、一人で前髪を掴んでは撫でている。
俺とプロミネンスと違って、ガゼルは悔しさとかそういうのを表立ってチームメイトの前に晒さない。言葉に出して悔しがって解消せず、ただ一人で前髪を掻きむしって終わる。チームメイトは、特にそれに声をかけたり何かはしないけど、気持ちは汲んでるんだろうと思う、その証拠に、見ない振りをしちゃいるけどガゼルの方を心配そうにチラチラ見てる。信頼関係ってのは色々な形があるもんだし、それにとやかく言うつもりはねえけど、そんなこと繰り返してたらガゼルとしては一人で無理ばっかりすることになるんじゃないんだろうか。心配ってわけじゃない――全然ない、断じてないけど、ガゼルは冷静に見えて結構すぐアツくもなれば不安定にもなる奴だし、そういう方法が向いてるとはあんま思えない。
プロミネンスの反省会が終わった後、俺は一人で残ってちょっと個人技の訓練して、俺が着替えにロッカールームに行った時にはプロミネンスのメンバーはもう全員はけていた。ダイヤモンドダストの奴らが三人くらいいて、俺が入ってきたのを見て何か話していたのを急に黙り込んで見てくる。その反応にカンジの良さとかなんて当たり前だけど全然なくて、イラッとするのを抑えられるほど俺も大人じゃない。まぁつっかかるほど子供でもねえけど。
俺は黙ってそいつらの横を通って自分のロッカーまで行った。余談だけど、ロッカーは二段になってるんだけど、マスターランクキャプテンのロッカーはその二段がぶち抜かれて一つの縦長になった形だ。幅は二段仕様のままで結構広いから色んなものが入る。俺がそのロッカーを漁ってシャワー浴びる準備を始めようって頃には、そいつらも急ぐように出て行った。あぁ出てけよ、お前らみたいなのと黙って一緒にいてやれるほど俺は優しくはねえよ。お前らのガゼル様とは違ってな。
あとは一人でシャワー浴びて着替えるだけか、って思って縦長のロッカーを閉めた時に、誰もいないと思ってたシャワールームの方から誰かが歩いてくる音がした。
まぁこの時間にシャワー使ってるって時点である程度予想はできてたんだけど、ガゼルだった。
「……」
ガゼルはTシャツ半パンの軽装姿でタオルを肩から引っ掛けてて、俺を見て嫌そうに眉をひそめた。さっきのダイヤモンドダストの奴らと同じような、でももっとあからさまな、拒絶の反応。さっきの奴らには何とも思わなかったのに、それには何故かゾクゾクと興奮が頭をもたげてくるのを感じる。
「よぅ、お疲れ」
俺は、わざとらしいくらい普通の言葉を選んで、でも到底そんな言葉の似合わない感じの声をかけた。
「……」
ガゼルは無言のまま眉間の皺を深める。その心から嫌そうに細められた目が、俺の目に浮かんでるだろう欲望の光を捉えて微かに揺らいだのを、俺は確かに見た。見たな、じゃあ気付かなかったなんて言わせねぇよ?俺は嫌がるこいつをどう捩じ伏せようか、楽しい気分で考え始めた。
「……好きにすればいい」
そうしたら、てっきり無視を貫くだろうと思ってたのに、意外にもガゼルはそう吐き捨てるように言った。予想外の返事に思わずオッ、と声が出る。
「へぇー負けた直後にやる気満々って、お前どんな淫乱だよ?」
腕を首に絡めて言ってやると、
「そんな無駄口叩くようなら要らないということなのだな」
その腕をあっさり払い落としてガゼルは歩いて行こうとする。
せっかく負かしたのにガゼルの態度が思ったより平坦で、俺は何だかムッとする。もっと悔しがってる顔を見せてみろよ、そうじゃなきゃ面白くない。
俺は後ろ姿のガゼルの、無防備な襟首を思い切り掴んで全力で引っ張った。逆らいようもなく後ろにバランスを崩したガゼルが、支点になってる足まで滑らせて、受身も取れず背中を床に強打した。ガゼルは咳き込む。俺はその上にひらりと跨がって、ガゼルの顔をぐっと掴んだ。
ガゼルは、背中の痛みに焦点のぶれる目で俺の目を力を込めて睨みつけてきた。かと思ったら予想外の方向から手が伸びてきて、目の下辺りを思い切り引っ掻かれた。
「!」
意外に爪の威力はあって、ガリッという音と皮の剥ける痛みが走る。
「…野郎」
俺はかなりイラッときて、その手を掴んで乱暴に床に押し付けた。ロッカールームのガタガタした床に、ガゼルの手首の軟骨か何かが擦れてゴリッと鈍い音を立てる。その音にまた興奮して、俺は更に手に力を込めた。
ガゼルはその手には、それ以上抵抗する力を込めてこようとはしなかった。けど奪おうとした唇から、唾が吐きかけられて、俺の顔のちょうどさっきついた傷に命中する。
「油断も隙もねぇな…!」
俺は思わず声に出してそう言って、生意気な抵抗を繰り返すその唇に歯を立てて噛みついた。痛みに綻んだ唇の隙間から舌を侵入させて、逃げるガゼルの舌を絡め取って蹂躙する。それがキスの体裁になってきた時にはガゼルの抵抗も消えていた。
「最初っからヤル気だったくせによ」
「好きにすればいいとは言ったが…大人しくしていると言った覚えはないね」
唇を離して悪態をつけば、似たような調子の声が返ってくる。ガゼルは少し息が荒いままだった。その上下してる喉を俺は本能に任せるまま舐め上げて、時折歯を立てる。手首を押さえてた手を腕に沿って這い上がらせ、Tシャツの袖から腋に忍び込ませると、ガゼルの体がビクッと跳ねる。
「ちょっ…」
ガゼルが文句を言いかけるのを無視して、俺は手にした両腋を揉んだ。ガゼルは身を捩って俺の肩を押し返そうとする。普段腋を出してるくせに、こいつは腋が弱いんだ。
俺は手は腋の下を押さえたまま、Tシャツの上から歯で乳首を探す。嫌がるガゼルが、俺が探し当てたものに齧りつくとまた体を跳ねさせて抵抗をなくす。俺が手を進めるたんびに抵抗と無抵抗の波が少しずつ凪いでいく。ガゼルの体が、男としての直接的な欲望の火に燃えていくのが分かる。
そのご期待に沿えるように、たっぷり愛してやるよ。思ってから、あぁ何か俺達の関係を表すのに愛ってほど滑稽な言葉もねぇな、って思う。けど何でか、今はその言葉を使いたくなった。抱くとかヤるとかぐちゃぐちゃにするとかじゃなくて、愛したくなったのだった。
下半身に手を伸ばそうかという時に、ロッカールームの外の廊下を誰かが通る気配がした。俺もガゼルも流石にギョッとする。戦い合うように言われたチームのキャプテン同士がこんなことをしていると表沙汰になったら、色んな方面でヤバい気がする。
俺はガゼルを引っ張り起こして、そこにあった俺のロッカーに押し込んだ。そして俺も入り込んで内側から扉を閉める。結局足音は遠ざかってロッカールームには来なかったみたいだった。
「わざわざこんなところに入り込むくらいだったら止めれば良かったじゃないか」
ガゼルが小声で言う。
「居づらいし埃臭い…君ロッカーもう少し掃除したら」
「うるせぇな」
俺は四の五の言ってるガゼルの中心を鷲掴みにした。
「……っ」
突然のことにガゼルは息を詰めた。偉そうなこと言う割にそこはもうだいぶ熱い。
「たったあれだけでこんなんにしといて」
そのままゆっくり揉みしだいてやれば、すぐに硬度が上がる。ガゼルは息の温度を上げていきながら、
「君が…言えたことか…」
と掠れた声で言い返してきた。ロッカーの両壁に手をついて体を支えて、与えられる刺激に耐えている。表情自体は初めて見るタイプの顔じゃなかったけど、狭くて暗い、埃の匂いがするこの中で見ると妙に滾る。
俺は性急にガゼルの下衣をずり下ろして、直に性器を扱いた。
「…っ…あ」
ガゼルが上半身を捩って、抑えきれない声を漏らす。それが普段の喘ぎ声より全然エロくて、俺は手を速めていく。ガゼルは必死に堪えていたけど、時折出てくるその声がやっぱりたまんねぇ。
俺はガゼルの片足をハーフパンツから抜いてグッと曲げさせた。しばらく片足で立ってもらうことになるけどまぁしょうがねぇな。そうして露になる股間に俺は改めて指を伸ばす。特にその後ろの蕾を目指して。
「…っ…」
ガゼルの先走りだけじゃちょっと湿度が足りなかったのか、指を無理矢理侵入させたらガゼルは辛そうな声を出した。何とか広げようとして指動かしてたんだけど、埒が明かない。仕方なく俺は一旦指を引き抜いて、その指をガゼルの口の前に突き出した。
「…何だい」
「言わなきゃ分かんねぇのかよ、舐めろ」
「……」
ガゼルは汚いものを見る目になった。まぁ確かにな、自分の後ろに突っ込まれた指を舐めろとか、最悪なこと言ってると自分でも思う。けど譲ってやる気もなかった。俺に愛されたきゃこれくらいしてみろよ。
ガゼルはしばらく唇を噛んでいた。けど、どういうわけか、それ以上文句を言うこともなく、震える唇を開いていった。すぐに突っ込んでやっても良かったんだけど、まさかそんな素直なガゼルが拝めるとは思ってなかったので、試しにしばらく待ってみる。ガゼルは薄く開いた唇の間から舌を出して、顎を少し突き出すような形で俺の指と接触させた。チロ、と一舐めした後、意を決したようにその指ごと三本、俺の指をまとめて口に含む。
ガゼルは不快そうな表情の中に、明らかに普段にはない興奮の色を浮かべていた。やっぱりこいつも大概変態だ。神経質でキレイ好きで通ってるこいつがこんな汚い真似で悦ぶなんて誰が想像するだろう?
十分濡れた頃に俺は指を口から出し、乾く間もないうちにまた後孔に指を突き入れた。それでもきっついけど、さっきよりは何とか広がる余地を見せる。ガゼルは異物感からか顎を反らせて苦しがってたけど、腸の中は物理的な刺激に反応して徐々に湿ってくる。前立腺を触ってやればガゼルを悦がらせるのは簡単だって分かっちゃいたけど、今日はそんな甘いことしてやるつもりはなかったので、広げるだけ広げたらすぐにガゼルの足の間に入り込んだ。俺は自分のモノをその秘所に宛がって、1、2センチ入れ込んでやってから、ガゼルの両足を抱えて地面から離し、腰を落とさせる。
「……!!…!!」
急に後ろが満たされて衝撃と圧迫と、それに快感も、いっぺんに押し寄せたんだろう、ガゼルが目を見開いて息を止めていた。多分声を上げたくて仕方ないんだろう、けどこんな所だから息ごと止めてるんだ。
俺は不意にそうしたくなって、かぶりを振るガゼルのきつく閉じられた目に唇を寄せてやった。
ガゼルが訝しげに目を薄く開く。俺がこんな生易しいことすると思ってなかった、そんな目をしてた。
そんなに酷くされんのが好きなのかよ?ドMだな。そう思って、俺はガゼルの腰を掴んで出入りを開始した。ガゼルはまたきつく目を閉じながら、俺の肩に腕をするりと回して、それに応える。止めてる息がたまに漏れてくると熱くて、俺の脳髄を痺れさせる。この狭い中でヤってることが余計に興奮してるのが俺だけじゃないことは明白だ。
ロッカーの中にいるとロッカールームの外の足音は聞こえなかったらしい。そうやって激しい抽挿を繰り返していた真っ最中に、急にロッカールームのドアが開く音がして、俺はギョッとして動きを止めた。ガゼルも硬直している。ロッカルームの中を人が歩く気配がして、どの辺りかは分からないけど止まって、ロッカーの開く音がして、ガサガサ物音がする。近さ的にプロミネンスじゃない。ダイヤモンドダストかガイア。ダイヤモンドダストでもヤバいけど、ガイアだったらかなりヤバい。中でもグランだったら、多分洒落にならない。
物音はなかなか去らない。ガゼルを見たら、ガゼルも視線を返してくる。この狭くて暗い中で目が合う。外では物音がしている、すぐそこに誰かいる。俺はガゼルの中に入ってる。状況は限りなく危なっかしい。
俺はガゼルの目を見ながら、ぐっと腰を突き上げた。ぐち、と音がしてペニスと腸壁が擦れる。ガゼルは奥歯を噛み締めて息を止め、それから唇を震わせながら少しずつ息を漏らした。結果的に、結合部からの小さな摩擦音以外に物音は立たなかった。
なかなかやるじゃねえか、と、俺はそろりと腰を引いてまた打ち付ける。ガゼルは顔を伏せてまた息を止める。その顔はびっくりするくらい赤くなってて、目も快楽を堪え切れずに潤んでいる。
物音がまだしている中で、俺は再び律動を開始する。体がロッカーの壁に当たっても音がしてしまう状況の中で、息を止めるガゼルを責める。ガゼルは肩を掴む手に力を込めて、ユニ越しにも痛いくらい爪を食い込ませてくる。けど、音を立てずに息をすることと、俺のを飲み込んで収斂することを奇跡的に両立させていた。俺が奥に打ち付ける度に、腹に当たるガゼルの性器から、少しずつ先走りが溢れて飛び出す。壊れた噴水のように、俺のユニを濡らしていく。
そうこうしているうちに、ロッカールームにまた誰か入ってきて、物音が増えた。今度は場所的にプロミネンスで、俺らのいる場所からかなり近い。面白くなってきた、と俺はガゼルを突き上げ続ける。ガゼルは苦しげに細めた目で、音もなく荒い息を漏らしながら、俺を睨む。俺は薄く笑ってやる。腰は止めない。この状況に興奮してんのはお互い様なんだから俺だけが責められる筋合いはねえよ。
そうしたら、ガゼルの目が、情欲に濡れたまま不意にすっと冷たくなる。何だ、と思ったら、俺が最奥を突いた時、急にガゼルが結合部を締め上げた。思わず、ウッと声が漏れそうになるのを必死に抑えて息を止める。なるほど、声を抑えるには息を止めるのがかなり有効だと俺も気付く。
ガゼルを見上げたら、汗に涙に湿った顔で、得意気に笑ってきやがった。
(…野郎)
俺は舌舐めずりしてから、抽挿を再開した。動きながら、ガゼルの腰を支えてた片手を這い上がらせる。Tシャツの裾から侵入させて、更に這い上がって、ガリッと乳首を引っ掻く。ガゼルは息を詰める。俺は間髪入れずにそこを摘んだりこねたり潰したりつねり上げたりして刺激を続ける。ガゼルの反応を見てたら、息を止めながらも目は強気な光のままだった。けどその目から、ある瞬間ポロッと涙がこぼれた。そのミスマッチな現象でガゼルが急にドキッとするほどキレイに見える。埃まみれで悦がってるだけのはずのガゼルが。
俺がこぼれた涙を舐め取ったら、ガゼルはその舌に自分の舌を絡めようとした。口の外で舌を舐め合う。ガゼルはしきりにその舌を自分の口内に引き込もうとした。あぁ確かに口の中ぐちゃぐちゃにしながらもっと強く突き上げてやるのも魅力的なお誘いではある。けど、今ガゼルが欲しがってるキスは息の音を隠すためのものだ。そんなラクな道に、誰が行かせてやるかってんだよ。
俺はガゼルの口から離れて、するっと下に逃げた。ガゼルの顎の下に潜り込んで、ガリッと首筋を噛む。
「―――」
ガゼルが息を呑んだのが分かった。かなり危なかったらしい。俺は楽しくなって噛んだところを吸い上げ、舐めて、丹念に痕をつけていった。ユニホームじゃ隠れないところだ。
チラとガゼルを見上げたら、ガゼルはイラッとしたような笑顔を浮かべていた。言葉がなくても、この野郎、という声が聞こえてきそうな顔だった。あぁやっぱり、ここまで苛めてやってもこんなにも強気を崩さないのはこいつが男ならでは、こいつがダイヤモンドダストのキャプテンならではだろう。それなのに、最終的にはこいつは俺に屈服する。その瞬間がたまらないから、俺はこいつを抱き続ける。
近くの方のロッカーが閉まるキィという音がした後、足音とドアの音がそれに続いた。そいつが出てったんだ。気付いたら最初の奴の気配もなくなっていた。ロッカールームはまた無人に戻ったのだ。
俺はロッカーのドアを乱暴に開けて、外にガゼルを引っ張り出してその場に押し倒した。それから両手を押さえて夢中で突き上げた。
「…っあぁあ…!」
ずっと堪えていた嬌声がガゼルの喉から漏れる。まだ人が入ってくるかもしれないのは同じなのに、俺達は床の上でもつれ合いながらがむしゃらに求め合った。最初の絶頂はすぐに訪れて、でもそこで止まらずに腰を使い続ける。ガゼルは俺の下で悦んで啼き続ける。俺の思い通りに狂い、俺だけのモノに染まっていく。こいつが完全に俺の好きなようになるのは一瞬だ。快楽が頂点に達するこの短い間だけ。それが、俺を飽きさせない。何度でも征服してやりたくなるのだった。
埃にまみれた互いの体を貪りつくして、波が何とか引いたのは三回くらいヤった後だった。俺がガゼルから出て行って体を起こすと、ガゼルもだるそうに上半身を起こす。さっきまで繋がってた穴からゴプ、と音を立てて俺のが溢れ出したのが見えた。
「…最悪だ」
ガゼルは掠れた声で一言そう呟いた。俺は何と言ってやるつもりもなかったんだけど、あんなに悦がっといて最悪とか。聞き捨てならない。
「何がだよ」
「……言いたくないよ」
ガゼルは俺をチラッと見たが、目を逸らしてそう言った。それからさっき入ったはずのシャワールームにまた歩いて行こうとする。
俺はその態度に何となくムッとして、ガゼルが鍵を閉める前に同じシャワールームの個室に侵入した。二人にはちょっと手狭な個室の鍵を閉めればロッカーよりはマシな密室の出来上がりだ。
「何が最悪だって」
「……言いたくないと言った」
「言わなきゃ今と同じこともう一回やってやろうか」
「……」
ガゼルは俺から目を背けて黙っていたが、しばらくしてからそのままでポツリと言った。
「何故…愛したんだ」
「―――」
その言葉がガゼルの方から出てくると思ってなかった俺は、咄嗟に絶句する。体を繋げると考えてることまで伝わっちまうとでも言うのか。
「君は今日私を負かしたのだから…もっとひどくすればよかっただろう」
ガゼルは、聞き取るのがやっとの声を絞り出して言っていた。
あぁ、なるほど。それで何か全部納得がいった。
こいつは一人で解消できない悔しさを、俺に抱かれるっていう屈辱で塗り潰そうとしてたのか。負けたんだから仕方ないと言い聞かせて自分から汚されたがっていたんだ。
そんな真似しないと、負けの悔しささえ消化できないこいつは、見た目によらず何て不器用なんだろう。
俺は急に目の前の存在が、ライバルとかそういうのを越えて愛しくなった。思わずその体を抱きしめる。
「やめろ…」
ガゼルが力なく身を捩る。俺は腕に力を込めた。愛するなと言われたら愛したくなるなんて、俺達ってほんと相性最悪なんだな。でもそれさえ何だか幸せなことなんじゃないかと思えてしまう。
「いいぜ…じゃあお望み通りうんとひどくしてやるよ…後で部屋に来な」
耳元でそう低く囁いてやれば、ガゼルは身動きを止めた。俺は体を少し離して、予想通り目を丸くしているガゼルの唇を、そっと吸った。
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10月9・10・11日はバンガゼの日!バンガゼの日ー!!>▽<