this is your birthday


俺達に誕生日など存在しない。物心ついた頃には、そんな概念がない環境にあった。
おひさま園に来た日だって、もう覚えてない。
「そんな女々しいものに興味はないよ」
隣で寝てる、恋人と呼ぶにはちょい歪な関係の涼野風介が、吐き捨てるように言う。こいつはそういう奴だった。世の中が楽しみにしているイベントには全く興味がない。誕生日だけじゃない、正月、バレンタイン、入学卒業、GW、夏休み、ハロウィン、クリスマス、何でも。俺だって必要以上にはしゃぐような気にはならないけど、ここまで徹底して排除してるってのもすげぇなぁと思う。
「じゃあお前いつ年取るんだよ?」
「さぁね。正月でいいんじゃないか。そうじゃなきゃ新年度の初めでもいい」
「へぇ」
本当に興味なさげに言うんで、俺も適当に返す。まぁ俺だってそこまで厳密に自分の誕生日を突き止めたいとか思わないけど、まぁ、節目みたいのがあっても別にバチはあたらねーんじゃないかとも思うんだけど。
「…でも、そうだね、もし私の誕生日が欲しいなら」
ガゼルはそこでゆっくりと身を起こした。その顔を見たらやたら愉しそうな笑顔だった。
「今私を殺しなよ…そうすれば今日が誕生日だ」
俺は意味が分からなくて眉をしかめる。
「はぁ?そりゃ誕生日じゃねぇよ命日ってんだろ」
「そんなの言い方の違いだけじゃないか。この世からいなくなったらあの世で生まれるんだ。誕生日だよ」
そう言った風介の指が俺の顔に伸びてきて、俺の顎の輪郭から頬をなぞっていく。こいつが何言ってんのかはさっぱり分からなかったけど、そんなんいつものことだった。指の動きがどことなく怪しくて、誘ってんのか?と目線を投げれば風介の目も唇も歪な光で彩られている。へぇ、案外楽しそうだな、とそれに乗っかって唇を奪う。舌から歯から味わい尽くすつもりで吸い取って、なるほどこのまま息まで奪っちまうのもいいかもしれねぇな。顎に沿わせた手を滑り下ろして軽く喉を絞める。唇の中で風介が苦しげな声を出す。この声から何から全部俺が吸い取りたい、体の中身を奪い尽くしたい、中身のない殻は食い尽くしたい、そんな衝動が沸き起こってくる。
俺は風介の喉を一旦解放して、ベッドの縁に置いてあったペーパーナイフを手に取る。刃物と呼べない程度の鋭さしかないそれを、空気を欲して咳き込む風介の、首の後ろにそっとひた当てる。この位置にのめり込ませればきっと、すぐには死なずに、ぬるい血が溢れて失われるまで苦しがるお前の感覚を残してられるな、なんて。金属の冷たさに一瞬身震いした風介が、次の瞬間にはうっとりした顔になる。ハハッ、お前も大概気違いだなぁ。でもそんなところも愛しくてたまらなくて、だから俺は。



『誕生日おめでとう、俺の風介』


『アンド、俺』



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椎名奏様にお誕生日プレゼントとして差し上げました。病み病みになってしまってちょっと後ろめたいので裏行きでっしゃろ…^p^