いつでも



いつまでやってるつもりなんだ、こいつは。

普段、俺達は一緒に買い物とかはしない。
男二人で食いもん買ってるって何か変な目で見られるだろうからな。そんで実際その疑惑は正しいわけで、まぁ俺も風介も恥ずかしいとかそういうのはないんだけど、アブノーマルなのは重々承知なんでちょっと見てる人に申し訳ないってのがある。なんで、買い物は毎日交互に、学校の帰りにやってる。日によっては何も買うもんがない日もあるけど、それでも飛ばさずに交互、ってことで決まってる。で、日曜日は飛ばす。だから自分の曜日はずれないんで、曜日制と言ってもいいかもしれない。
そんな俺達なんだけど、日曜日の今日、急に排水溝用ネットが切れた。で、どっちが買いに行くかってなった時に、せっかくだから二人で、ってなり、今スーパーに来てる。そのついでに食料を買い足したい、と風介が言って、今日の夕飯のサラダに何入れようかとかいう話をしながら野菜のコーナーを歩き回る。普段買い物を誰かとするってないから、何だか新鮮だ。
珍しくアボカドでも入れようか、って言い出したのがどっちだったかは覚えてないけど、そういうことになってアボカドの前に行ったのが、5分くらい前のこと。で、冒頭に戻る。
風介は山のように積んであるアボカドを一個一個指で押して、これは固すぎ、これは柔らかすぎっていう作業を飽きもせず繰り返してた。皮の上から指の腹で、中身を傷つけないように優しく押す。十分固さを確かめたら、次へ移行。何個あると思ってるんだ、まさか全部やる気じゃないだろうな。
「どれだって変わらねぇよそんなん…」
「何言ってるんだ、君は固すぎるアボカドとか柔らかすぎるアボカドに当たった時の悲劇を知らないのかい」
あまりにも熱心なんでそう漏らしたら、風介から至極真面目な声が返ってきた。
「知らねぇよ」
半分くらいうんざりしてそう言ったら、風介はそれを聞いて不穏な笑みを浮かべた。
「ふぅん…?じゃあその舌に思い知らせてあげよう」
そう言うと、風介は自分で厳選した選りすぐりの一個と共に、明らかに緑っぽくて固そうなのを一個とり、かごに入れた。
「はぁ?金もったいねえだろ、やめろよ」
「いや、知らないんなら一回は味わうべきだね。食べ頃のアボカドがどんなに至福のものか分かるから」
俺が反論しても風介は聞く耳持たずに、アボカドを二個入れたままのカートを押して歩き出してしまった。マジで?と思いつつ、食いもんにこんなアツくなる風介って見たの初めてかもしれないと思い、俺はしぶしぶその後について歩き出した。


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そうして家に帰ってから、少しグダグダした後夕飯の準備に入る。料理も、普段はキッチンも狭いしどっちかがやるんだけど、その日は買い物の流れもあって二人で並んでキッチンに立った。
風介は冷蔵庫からアボカドを二つ取り出してまな板の上に並べ、順番に切っていった。まず皮付きのまま半分に切り込みを入れ、割ってから中にあるでかい種を取り出す。それから手で皮を剥いてく。風介厳選の方はスムーズにその作業が進んだが、固い方はまず割るのに一苦労、種を取り出すのにも一苦労で、皮を剥くのだって簡単じゃなかった。こんなに違うもんなのか。
食べる大きさに切ってから、風介は固い方を一切れ俺に寄越してきた。今までの作業からしたって嫌な予感しかしないけど、俺は仕方なくそれを受け取って口に入れる。予感は的中で、プラスチックか何かでも食ってるみたいな味のなさと妙な歯応え。お世辞にも美味くない。
「ゲェ…何だこれ」
思わずそう言ったら、風介はクスクス笑った。そして次に柔らかい方を一切れ寄越してきた。それも口に入れたら、世界が逆転するかと思った。口の中でアボカド特有の香りが広がり、噛めば蕩けるように消えていく。そうそうアボカドってこういう味のもんだよな。今まで意識して食ったことないけど、ちょっと熟し方が違うだけでこんなに違うのか。
「分かったか」
「お見それしました」
得意気に笑う風介に、俺はすっかり降参して頭を下げた。
「固い方は火を通せば食べられないこともないだろう」
風介はそう言って、正直食い物とは思えない固いブツを別のボウルに取り分けた。マジで?とてもじゃないけどそれが食えるようになるとは思えないけどな。でも捨てるのももったいないのは確かなんで、全部風介に任せることにする。

出来上がった夕飯は、(固い)アボカドとベーコンを炒めたやつに、(食べ頃の)アボカドとモッツァレラチーズが入ったサラダ、それと牛肉のインゲン巻き、スープもあって、結構なご馳走になった。妙にアボカド率が高い気はするけどそれはまぁ仕方ない。
二人で皿を並べて準備してると、テーブル越しにバチンと目が合った。
あんまりにも不意打ちだったんで、俺はしばし反応を失う。
風介も似たような感じでしばらく無表情でいたけど、
不意にニッと笑ってきた。
こういう確信犯的な顔するところがこいつだよな。俺は思わず笑って、すぐにテーブルの逆側に回り込む。そのまま噛み付くようにキスをしたら、風介の方もするりと首に腕を回してきた。
ついばむようなキスを繰り返しながら、俺はふと思いついて、指の腹で風介の肌を押しながら辿る。さっきスーパーで風介自身がアボカドにやってたみたいに、確かめるように押してく。指には筋肉の固い感触が返ってくる。
「何してるの」
「んー…食べ頃かどうかのチェック?」
キスの合間に風介が言うのに、俺は手を滑り下ろして服の上から胸に指の腹を押し付けた。乳首を探して押したら、少し固い。吸い寄せられるように唇を寄せた鎖骨も、やっぱり固い。
そうしたら頭の上で風介が笑う息が聞こえてきた。俺が見上げたら、風介は例の得意げな顔をしていた。
それから風介は俺の頭を掴んで、耳元に唇を寄せてきた。
「―――」
呟くように言われた言葉に、思わず目が丸くなる。
あと1秒次のアクションが遅ければその場で押し倒して抱いてただろうけど、タッチの差で風介が俺から離れた。
「続きは、夕飯の後だ」
そう言ってまた悪戯っぽく笑うと、風介はキッチンに残りの皿とか料理を取りに歩いてってしまった。


***********

(私は、いつでも食べ頃だよ)

なるほどな?
夕飯の後、覚えとけよ。



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ネタ提供りゅうへい様。アボカドUMEEEEって話からなぜかこうなった